• 田山鐡瓶工房

    田山和康

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    鉄瓶の内側の空洞を作る「中子づくり」。外側の型と中子の間に溶解させた鉄を流し込むことで鉄瓶の形が出来上がる。 

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    形や模様、蓋の形状など全体のデザインを決めて実寸で断面図を作図。図面からおこした木型(現在は鉄製だが昔は木を用いていたため名称がそのまま残っている)を使い、粗い砂からはじまり少しずつ粒子の細かな砂を幾層にも重ねて表面となる外側の型を挽いていく。 

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    鋳込みが終わった後、赤々と燃える炭の炉の中で1 時間ほど焼く「金気止め」の工程。酸化皮膜をつけることで錆びにくくする、南部鉄器発祥の錆止め技術。皮膜を均一につけるため、炎の色や勢い、爆(は)ぜる炭の音で温度を見極めながらの作業は熟練を要する。 

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    「金気止め」をしたあと、再び炭で熱して漆を塗る「焼き付け」。黒ではなく赤みがかった茶に仕上げた作品が多いのも田山さんの特徴。さらに鉄が溶けた酢酸とお茶をまぜたお歯黒を塗って仕上げることで、光沢を落ち着かせる。

  • 道を追い求める人が集まる工房

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     「半世紀にわたる職人歴で培った技術をより高め、継承していきたい」と工房を立ち上げた田山和康さん。南部鉄器唯一の無形文化財・繁吉盛久氏に師事し、直々に薫陶を受けた最後の職人だ。平成30年に現代の名工にも選出された田山さんの鉄瓶は薄くて軽やか。形状や角度が計算しつくされた注ぎ口は心地いいまでに湯切れがいい。数年待ってでも欲しい人がいるのもうなずけるほど、用と美をあわせ持っている。


     田山さんが作る鉄瓶の真骨頂はシンプルな中にも趣あるたたずまいを感じる美しいフォルム。岩手県奥州市の禅寺・正法寺の坐禅堂で見た座布団の形や開花間近の梅のつぼみ、山歩きで見つけた可憐なアジサイの花など「美しいと心に残ったものを形にしたい」と手描きで図面をおこしてデザイン。「表面だけではなく、工程を一つでもおろそかにするといいものはできない」と、細部にまで手間と時間をかけている。


     そんな田山さんの仕事を間近で見つめ、支えているのは南部鉄器のこれからを担う職人たち。中には「もっと学び、いいものを作りたい」と、他工房で10年以上従事してきた職人の姿もある。田山さんは後継の育成が南部鉄器の底上げになると信じ、教えを乞う人には誰にでも惜しみなく自らの技術を伝えている。「鉄器作りは鉄だけじゃなく粘土や砂、火、漆など、色んな素材を扱う技がつまった工芸。伝えていくべきことはたくさんある」と話す。技術がきちんと残っていくために、職人の〝勘〟に頼りきりにならないよう、長年、数字や理論を書き残している徹底ぶり。生涯現役として手を動かし続け、道を追い求めている職人の姿は、南部鉄器の未来を明るく照らす道しるべとなっている。