• 小林漆器

    小林正知

    津軽塗の代表格である塗り技法・唐塗の工程。右端の下地作りからはじまり、塗り、研ぎ、磨きなど40以上もの工程を経るため、「馬鹿塗」と称されるほど馬鹿丁寧に手間をかけている。

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    漆の上に菜種をまく「七々子塗」の工程。2日ほど室(むろ)で乾燥させたあと種をはがし、さらに漆を塗り重ねたあとに研ぎだすと、魚の卵(ななこ)を散りばめたような輪紋があらわれる。

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    塗りだけではなく、均一に平らに研ぐことも技術を要する。

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    穴の開いた自作のヘラを使い、粘度の強い漆で凹凸をつける「唐塗」の仕掛けと呼ばれる作業。色漆を重ね、研ぐことで同じものが2つとない抽象的な模様が浮かび上がる。

  • ゼロから無限に広げる漆の可能性

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     「昔から図工は苦手で、漆はド素人というゼロからのスタート。修行し始めた頃は、自他ともに認めるほど下手くそだったんですよ」。東京のアパレルメーカーで働いていた小林正知さんが、津軽塗の製造・販売元『小林漆器』を継ぐためにUターンしてきたのは平成23年のこと。当時は営業や販促面を中心に店をサポートしていくつもりだったが、5代目である父・孝幸さんのすすめで津軽塗技術研修所に入所。伝統工芸士の今 年人さんに師事して津軽塗の基礎を学んだ。


     頭では分かっていたものの、思っていた以上に手間と時間をかけて作られていることに驚きを隠せなかったという正知さん。代々続いてきた仕事の尊さを改めて感じた。「師からも認められて、売れる品質のものを作れるようになった頃から仕事がおもしろくなっていった」と話す。津軽塗を代表する伝統的な唐塗、七々子塗、紋紗塗、錦塗を次々と習得。漆の多彩な表情に魅せられて、現在は新しい塗りにも挑戦するようになった。インスピレーションの源は何気ない風景。「工房にこもりきりにならず、なるべく外に出て、色んなものを見るようにしてます。その中に新たなヒントがある」と話す。尾をひいた流れ星が漆黒の夜空いっぱいに広がっているような〝流星〟をはじめ、独自の塗りも編み出した。


    「父も木製品以外の素材にも塗るなど新しいことをやって風穴をあけてきたタイプ。それに倣うわけではないですが、自分らしい津軽塗を発信していければ」と意気込む。先人たちも試行錯誤を重ね、美しい模様や豊かな色彩を生み出してきた津軽塗。新しい試みの中から、これからの津軽塗のスタンダードが生まれていくのかもしれない。

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    さまざまな企業や津軽打刃物、津軽焼といった地元工芸品とのコラボレーションなども精力的に行い、津軽塗の伝統と文化を発信。今後が期待される職人のひとり。